【論稿】牽連破産における実務上の留意点

(弁護士 石田修一)

1 牽連破産とは

牽連破産とは、再生型手続がその目的を達せず、破産手続により債務者の財産を清算する必要がある場合に、再生型手続の遂行を監督する裁判所が適時に開始する破産手続をいいます。牽連破産に至るケースとしては、通常再生や個人再生、会社更生、特別清算の各手続が途中で頓挫したケースがありますが、以下では、事例の多い通常再生の牽連破産に関する留意点について、東京地裁破産再生部での運用を前提に説明いたします。

2 牽連破産となる場合

 裁判所は、再生手続開始の申立ての棄却(民再法21条、25条各号)、再生手続の廃止(民再法191条~194条)、再生計画不認可(民再法174条2項各号)、再生計画の取消し(民再法189条)の各決定が確定した場合において、破産手続開始の原因となる事実が認められるときは、職権で破産手続を開始することができます(民再法250条1項)。これらの場合に破産手続を開始するかどうかは裁判所の裁量に委ねられておりますが、東京地裁破産再生部では、再生債務者が法人の場合には、全件につき牽連破産とする扱いとされております。

3 保全管理命令等の発令

 再生手続開始の申立ての棄却、再生手続の廃止、再生計画不認可又は再生計画の取消しの決定がされても、それが確定するまでは職権での破産手続開始ができないため、その間、再生債務者の財産を保全・管理して財産の散逸を防止する必要があります。そのため、裁判所は職権で、中止命令(破産法24条)、包括的禁止命令(破産法25条)、財産処分禁止等の保全処分(破産法28条)、保全管理命令(破産法91条2項)、否認権のための保全処分(破産法171条1項)をすることができます(民再法251条1項)。

 再生債務者が法人の場合には、全件につき保全管理命令(破産法91条2項)が発令され、監督委員である弁護士が保全管理人に選任されるのが通例とされております。保全管理人は、再生債務者の財産の管理処分権を有しますが(破産法93条1項本文)、保全管理人が再生債務者の常務に属しない行為をするには、裁判所の許可が必要です(破産法93条1項ただし書)。また、保全管理人が破産法78条2項各号の行為をするには裁判所の許可が必要となります(破産法93条3項)。

 この点に関連し、再生手続廃止後の保全管理中に事業譲渡を行う場合の具体的な手続が実務上しばしば問題となります。破産手続開始決定後は、破産管財人が裁判所の許可(破産法78条2項3号)を得て事業譲渡を行う場合、債務者が株式会社であっても、株主総会の特別決議による承認(会社法467条1項1号・2号、309条2項11号)を経る必要はありませんが、破産法上の保全管理中に株式会社である債務者が事業譲渡を行う場合には、一般に、会社法所定の株主総会の特別決議を経る必要があるとされております。しかしながら、牽連破産に移行する場合には、既に債務超過に陥っている場合がほとんどであり、株主総会の特別決議を経る必要性は乏しいと考えられるため、破産法93条3項、78条2項3号による許可があれば事業譲渡を実行できると解するのが相当ではないかとも思われます。なお、当職が把握する限り、東京地裁破産再生部では、原則どおり、保全管理中に株式会社である債務者が事業譲渡を行う場合、会社法所定の株主総会特別決議を経る必要があるとしています(後掲「民事再生の手引〔第2版〕」488頁以下参照)。

4 再生債権・共益債権の取扱い

(1)再生債権の取扱い

ア みなし届出

 牽連破産の場合、原則として、再生手続における再生債権の届出の効力は失われます。この点、破産手続において再生債権の届出をそのまま利用できれば、破産債権者と破産管財人の負担は軽減されるように思われます。そこで、裁判所は、相当と認めるときには、破産債権者は当該破産債権の届出をすることを要しない旨の決定(「みなし届出」と呼ばれます。)をすることができるとされております(民再法253条1項)。みなし届出の決定があった場合、届出再生債権は、破産法所定の債権届出期間の初日に破産債権の届出がされたものとみなされ、再生手続開始後の利息、遅延損害金は劣後的破産債権と扱われます(民再法253条4項3号)。もっとも、届出再生債権者が上記期間内に破産債権の届出をした場合にはみなし届出の効果は生じません(同条6項)。そのため、みなし届出を採用すると、届出をした債権者としなかった債権者との間で再生手続開始後の利息、遅延損害金の取扱いにつき不平等が生じうることとなります(特に、再生手続の開始から破産手続の開始までに相当の期間が経過している場合に顕著となります。)。また、再生手続開始後に代位弁済や債権譲渡が多数行われ、多くの債権者に変動があるような場合、新たな届出がないとかえって債権者の確定の作業が煩雑となることがありえます。以上の理由から、実務的にはみなし届出の決定がなされる事例は多くないようです。

イ 確定した再生債権の取扱い

 再生債権の調査によって確定した再生債権は、再生債権者の全員に対して確定判決と同一の効力を有します(民再法104条、111条)。また、再生計画認可の決定が確定したときは、再生計画の定めによって認められた再生債権は、再生債務者、再生債権者等に対して確定判決と同一の効力を有し(民再法180条2項)、他方、再生計画不認可の決定が確定したときは、確定した再生債権は、再生債務者に対し、確定判決と同一の効力を有します(民再法185条1項本文)。このようにして確定した再生債権は、その後の破産手続においては、破産法129条1項に規定する破産債権のうち「終局判決のあるもの」に準じた扱いを受けるとされております。そのため、破産管財人が債権調査の過程で異議を述べた場合には、当該破産管財人は、破産者がすることができる訴訟手続(判決の更正申立てや再審の訴え等)によってのみ、異議を主張することができるにとどまります(以上につき、後掲「破産管財の手引(第2版)」406頁以下参照)。

ウ 再生計画認可決定確定後に再生手続が廃止された場合

 再生計画認可の決定が確定すると、届出再生債権及び自認債権は、再生計画の定めに従って変更され(民再法179条1項)、再生債務者は、再生計画の定め又は民事再生法の規定によって認められた権利を除き、すべての再生債権について免責されます(民再法178条1項)。しかしながら、再生計画の履行完了前に再生手続が廃止されて牽連破産となった場合は、再生計画によって変更された再生債権は原状に復します(民再法190条1項本文)。もっとも、再生債権者が再生計画によって得た権利は影響を受けないため(同項ただし書)、再生計画に基づいて行われた弁済はなお有効です。

 破産手続では、従前の再生債権の額から再生計画により弁済を受けた額を控除した額をもって破産債権とされますが(同条3項)、配当額を定める際には、従前の再生債権の額をもって配当の手続に参加することができる額とみなし、破産財団に当該弁済を受けた額を加算して配当率の標準を定めることとなります(同条4項本文)。ただし、破産債権者は、他の同順位の破産債権者が自己の受けた弁済と同一の割合の配当を受けるまでは、配当を受けることができないとされております(同項ただし書。このような調整は「配当調整」と呼ばれます)。このように、再生手続終結後の再生計画履行完了前の破産事件では、複雑な配当調整の問題が生じます(配当調整の計算方法の具体例については、後掲「破産管財の手引(第2版)」413頁以下参照)。

(2)共益債権の取扱い

 牽連破産の場合、共益債権(民再法119条以下)は、財団債権として扱われます(民再法252条6項)。そして、再生手続開始後に行った再生債務者の業務に関する費用の請求権(民再法119条2号)も財団債権となることから、通常の破産事件の場合に比べて財団債権が多くなるといえます。また、破産法上、破産債権については債権確定手続が用意されておりますが、財団債権についてはそのような手続は用意されておりません。破産管財人としては、財団債権について早期に確定すべく、財団債権の存在を主張すると予想される債権者に「財団債権の届出書」を送付する等の工夫をすることが考えられます(実務上の工夫の具体例につき、後掲「民事再生の実務と理論」236頁以下参照)。

5 否認権・相殺に関する調整

 牽連破産の場合において、否認及び相殺禁止に関する破産法の規定の適用については、再生手続開始の申立てをもって破産手続開始の申立てがあったものとみなされます(民再252条1項柱書)。また、破産法上、否認権の消滅時効は破産手続開始の日から2年とされていますが(破産法176条前段)、牽連破産の場合には、再生手続開始日をもって破産手続開始日とみなされます(民再法252条2項)。

参考文献

・中山孝雄/金澤秀樹編「破産管財の手引(第2版)」(金融財政事情研究会)

・鹿子木康編著「民事再生の手引〔第2版〕」(商事法務)

・島岡大雄「東京地裁破産再生部(民事第20部)における牽連破産事件の処理の実情等について(上)(下)」(判例タイムズ1362号4頁、1363号30頁)

・小川秀樹編「一問一答新しい破産法」(商事法務)

・事業再生研究機構編「民事再生の実務と理論」(商事法務)

(作成日:2023年7月31日)

以上

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