【論稿】国税の滞納処分への対応

(弁護士 原 香奈)

 本稿では、破産手続において破産者(法人)の預貯金口座につき、国税の滞納処分がなされている場合に破産管財人としてどのように対応するべきか、実体験をもとにご紹介いたします。

1 破産手続における国税の滞納処分の扱い

 破産手続開始決定があった場合、破産財団に属する財産に対する国税の滞納処分は、することができなくなります(破産法43条1項)。破産手続開始決定後に国税滞納処分の執行を認めると、破産手続における租税等の請求権の優先性と矛盾する結果を招くため、破産手続開始後の国税滞納処分は禁止されています。

 この場合、租税等の請求権は、破産手続において、財団債権、優先的破産債権又は劣後的破産債権として扱われます。

 一方、破産手続開始決定は、破産財団に属する財産に対する国税滞納処分の続行を妨げないため(破産法43条2項)、破産手続開始決定時に既に実行されている滞納処分がある場合、当該滞納処分は有効であり、そのまま進行することになります。

2 国税の滞納処分がある場合の対応事項

(1)滞納処分の時期の確認及びその後の対応

 破産管財人としては、まずは滞納処分がなされた時期をよく確認する必要があります。

 仮に破産手続開始後に新たになされた滞納処分がある場合には、滞納処分の処分庁にその解除を求める必要があります。

 破産手続開始前に既に滞納処分がなされている場合には、滞納処分に基づく取立てについて、処分庁と協議することとなります。

(2)延滞税の減免

 処分庁と協議するにあたり重要となるのが、延滞税の減免の可否です。ここでは、主に国税の場合についてご紹介します。

ア 国税通則法63条5項を根拠とする減免の可否

 国税通則法63条5項では、以下のとおり延滞税の減免が認められる場合が定められています。この規定の適用を受けることができれば、差押え後は、延滞税の2分の1相当額が免除されることとなります。

国税通則法

(納税の猶予等の場合の延滞税の免除)

第六十三条

5 国税局長、税務署長又は税関長は、滞納に係る国税の全額を徴収するために必要な財産につき差押え(租税条約等の規定に基づき当該租税条約等の相手国等に共助対象国税の徴収の共助又は徴収のための財産の保全の共助を要請した場合における当該相手国等が当該共助対象国税について当該相手国等の法令に基づいて行う差押えに相当する処分を含む。以下この項において同じ。)をし、又は納付すべき税額に相当する担保の提供(租税条約等の規定に基づき当該租税条約等の相手国等に共助対象国税の徴収の共助又は徴収のための財産の保全の共助を要請した場合における当該相手国等が当該共助対象国税について当該相手国等の法令に基づいて受ける担保の提供を含む。以下この項において同じ。)を受けた場合には、その差押え又は担保の提供に係る国税を計算の基礎とする延滞税につき、その差押え又は担保の提供がされている期間のうち、当該国税の納期限の翌日から二月を経過する日後の期間(前各項の規定により延滞税の免除がされた場合には、当該免除に係る期間に該当する期間を除く。)に対応する部分の金額の二分の一に相当する金額を限度として、免除することができる。

 滞納処分がなされている場合には、これらの規定を基に延滞税の減免を求めることとなります。

イ 国税通則法63条6項4号、施行令26条の2の1号を根拠とする減免

 国税通則法63条6項4号、施行令26条の2の1号では、以下のとおり延滞税の減免が認められる場合が定められています。

 破産管財人は国税徴収法上の執行機関である(国税徴収法2条13号)ことから、破産管財人が交付要求を受けた国税・地方税の本税全額を支払うに足りる金銭を受領して破産財団を形成し、その後当該金銭を交付要求に係る国税・地方税の本税の納付に充てたときは、破産管財人が破産手続において当該金銭を受領した日の翌日から納付日までの延滞税の全額免除を受けられることとなります。

国税通則法

(納税の猶予等の場合の延滞税の免除)

第六十三条

6 国税局長、税務署長又は税関長は、次の各号のいずれかに該当する場合には、当該各号に規定する国税に係る延滞税(前各項の規定による免除に係る部分を除く。)につき、当該各号に掲げる期間に対応する部分の金額を限度として、免除することができる。

四 前三号のいずれかに該当する事実に類する事実が生じた場合で政令で定める場合 政令で定める期間

国税通則法施行令

(延滞税の免除ができる場合)

第二十六条の二 法第六十三条第六項第四号(納税の猶予等の場合の延滞税の免除)に規定する政令で定める場合は、次の各号に掲げる場合とし、同号に規定する政令で定める期間は、それぞれ当該各号に定める期間とする。

一 国税徴収法に規定する交付要求により交付を受けた金銭を当該交付要求に係る国税に充てた場合 当該交付要求を受けた同法第二条第十三号(定義)に規定する執行機関が強制換価手続において当該金銭を受領した日の翌日からその充てた日までの期間

 もっとも、同規定では、「交付要求」が要件となっています。交付要求の要件を欠く以上、滞納処分の場合には適用できないこととなります。

 そのため、交付要求を受けて財団債権を弁済する際には、この規定を基に減免を受けられるのか(破産財団等の状況に照らし、受ける実益があるのか)を検討することになりますが、滞納処分がなされている場合には、国税通則法63条5項を根拠とする減免のみを求めることとなります。

(3)小括

 以上のとおり、国税の滞納処分がされている場合には、取立てまでの延滞税が(減額はされるものの)発生する以上、早急に処分庁に連絡し、取立てをしてもらうことが必要となります。

3 滞納処分後の金融機関からの相殺

 ややイレギュラーな問題ですが、処分庁及び金融機関と取立て及びその後の破産管財人口座への預金残高の支払いを協議している際に、金融機関から、(元本は完済済みの貸付金について)未収利息が発生しており、破産管財人の口座に処分庁の滞納処分後の預金残高を支払う際、未収利息については当該預金債権と相殺をする旨の連絡がありました。

 滞納処分後、預金については普通預金口座から別段預金口座に振り替えられていたことから、預金が別段預金に組み替えられた後の相殺が可能か、念のため検討しました。

 この点は、差し押えられた預金を同一勘定科目の「差押口」や別段預金の「差押口」などの別口で管理するのは、差し押えられた預金を払い戻してしまわないようにするための金融機関の内部処理に過ぎず、別口で管理されている預金も、法的には取引先の預金と考えられています。

 そこで、別段預金への組み替えは、あくまで銀行の勘定の変更であることから、普通預金において相殺禁止に当たらない場合には、別段預金に組み替えられていたとしても、同様に相殺禁止には当たらない、という整理になると考えられます。

【参考文献】

破産管財の手引き 第2版 

破産管財人の財産換価 商事法務 編著 岡伸浩、島岡大雄、進士肇、三森仁

破産管財実践マニュアル 第2版 

実務必携 預金の差押え 

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