弁護士 小島 啓
1 絶対優先原則(absolute priority rule)とは
米国連邦倒産法における最重要論点の一つとして「絶対優先原則(absolute priority rule)」がある。絶対優先原則とは、権利関係の優先順位における上位権利者が全額の支払いを受けない限り、下位権利者は支払いを受けることができないという原則である[1]。米国連邦倒産法はこの絶対優先原則を直接的には規定していないが、一部の債権者クラスの反対を押し切って再建計画を承認する場合(クラムダウン(cram-down))の要件として「公正かつ衡平(fair and equitable)」であることが求められており(米国連邦倒産法第1129条(b))、これが絶対優先原則を体現するものと解されている[2]。
米国連邦最高裁判所は、古くから、無担保債権者に全額弁済をせずに旧株主に再建後の会社の株式を与える内容の再建計画が争われた事案等で、「公正かつ衡平(fair and equitable)」ではないとして再建計画の承認を否定する判断を下してきた。このような、再建にあたり利害関係人が倒産手続外で享受していた優先権の保護を確保するためのルールが、絶対優先原則である[3]。つまり、利害関係人の優先順位に関して、権利が損なわれるクラスの同意がない限り、各債権者は倒産手続上もその優先権が完全に維持される。具体的には、利害関係人として担保債権者、優先債権者、無担保一般債権者、株主が存在する場合、①担保権者に全額弁済をせずに優先債権者への支払いをすることや、②優先債権者に全額弁済をせずに無担保一般債権者への支払いをすること、③無担保一般債権者に全額弁済せずに株主に再建後の会社の株式等の権利を与えることは認められないということである。
絶対優先原則は、上位債権者がその債権の全額支払いを求めることができると同時に、全ての劣後当事者に公正な再建に必要な手続上の保護を与えなければならないことを意味する。そのため、絶対優先原則は、再建手続の利害関係人が享受する実質的な権利と手続上の保護の根源となり、倒産手続内外の規律の中核をなす基本原理であるとされる[4]。
絶対優先原則は、上記のとおり、クラムダウン(cram-down)の場合に適用され、全ての債権者クラスが賛成する場合(consensual plan)には適用されない。なお、公正かつ衡平か否かは個々の債権者レベルではなくクラスレベルでの同意/反対が基準となる。各クラス内で反対票を投じた個々の債権者は、米国連邦倒産法に基づく清算手続(Chapter7)で受け取ることのできた権利を主張することができるに留まる(米国連邦倒産法第1129条(a)(7))[5]。
他方で、判例上、「新たな価値」(new value)の提供という絶対優先原則に対する例外法理が認められている[6]。これは、旧株主が再建後の会社の株式に対して公正な価値を新たに提供した場合には、無担保債権全額を支払わない場合であっても、旧株主に再建後の会社の株式を与えて引き続き事業に参画させる再建計画が認められ得るというものである。絶対優先原則のもとでは、債務者に債権全額を弁済するに足る資産価値がない場合、株主は、新会社に新たな価値を提供しない限り、再建手続を通じてその権利を剥奪される[7]。
2 絶対優先原則からの逸脱(例外)
米国倒産実務及び学説では、個別事案の解決(法解釈)や立法(改正)において、絶対優先原則からの逸脱(priority jump)の可否が活発に議論されている。以下では、米国連邦最高裁判所で絶対優先原則が問題となった著名な事件を一部、概要のみ簡単に紹介する。
Norwest Bank Worthington v. Ahlers, 485 U.S. 197, 108 S. Ct. 963 (1988)
本事件では、家族経営の農場を営む債務者が将来の労働、経験及び農場経営に関する専門知識の提供を約束することで、絶対優先原則の例外(新価値提供の法理の適用)が認められるかが争われた。
本事件では、債権者が、米国連邦倒産法第1129条(b)(2)(B)(ii)に基づき、債務者に農場不動産権益を維持させる内容の再建計画を債権者の反対を押し切って認可することは許されないと主張した。当該再建計画は絶対優先原則に反する内容の再建計画であったが、金銭をもって新価値を提供することができなかった債務者は、将来の労務提供等を約束する形で新価値提供の法理の適用を主張したのである。
米国連邦最高裁判所は、新事業への参画には「金銭または金銭的価値」の貢献が必要であるところ、将来的な無形の役務提供の約束は、執行も不能で、貸借対照表にも計上できず、実質的な市場価値もないこと等から、絶対優先原則からの逸脱を認めるに足る適切な貢献とは認められないと判断した。
Czyzewski v. Jevic, 137 S. Ct. 973 (2017)
本事件は、Chapter11の手続廃止命令の一種である条件付廃止(structured dismissal)(※)が絶対優先原則に反する分配を行うものであったため、その影響を受ける債権者の同意なく破産裁判所がこれを承認することが許されるかが争われた。
(※)この点、Chapter11の結末としては、主に、①再建計画の承認、②清算手続(Chapter7)への移行、又は、③再建手続の廃止(dismissal)が想定されているところ、破産裁判所は、③廃止に当たり、再建手続中に生じた権利関係等の変動を手続前の状態へ復元せず異なる取扱いをする条件付廃止(structured dismissal)を命じることができる[8]。但し、この条件付廃止(structured dismissal)を命じるに際し、米国連邦倒産法は、利害関係人の優先順位につきいかなる規律が適用されるかを明示していない。
本事件の債務者(Jevic Transportation Corporation)は、いわゆるレバレッジド・バイアウト(LBO)により、Sun Capital Partnersによって買収され、その2年後にChapter11を申請した。債務者は労働者(トラック運転手ら)から連邦法に違反する解雇を理由に提訴され、破産裁判所は債務者に対し当該トラック運転手らに対する一定額の支払を命じ、そのうちの一部は破産法上の優先賃金債権とみなされた。また、これと別に、債務者の無担保債権者委員会は、Sun及びLBOに係るレンダーに対し、LBOに係る詐害行為否認訴訟を提起した。この訴訟当事者は最終的に和解合意に達し、その和解合意の中で、債務者のChapter11に基づく手続は廃止され、債務者の残余資産は無担保一般債権に比例配分で充当されるが、トラック運転手らの優先賃金債権には充当されないこと等が規定された。この点、本事件では、債務者の残余財産ではLBOに際して担保権を取得した担保権者以外への配分を行うことは不可能な状況であり、仮に破産裁判所が当該和解(条件付廃止(structured dismissal))を承認すれば無担保一般債権者への配分が可能となる一方で、その条件付廃止(structured dismissal)は中間順位(担保権者に劣後するが、その他の無担保債権者には優先する順位)の優先賃金債権をスキップするものであり、絶対優先原則に反する内容であるという問題があった。
破産裁判所は、問題となる支払いは(絶対優先原則の対象となる)再建計画そのものではなく条件付廃止(structured dismissal)を根拠とするものであることや、当該和解合意を承認しなければ、担保債権者以外の利害関係人にとって意味のある分配が実現されないこと等を理由に、かかる和解合意を承認した。
これに対し、米国連邦最高裁判所は、影響を受ける債権者(トラック運転手ら)の同意なしに絶対優先原則から逸脱する分配を承認することはできないとした。その理由として、絶対優先原則は米国連邦倒産法の基本原則であり、裁判所はこの原則の例外を許容するためには法令に明示的な根拠(立法意思)が見い出せる必要があること、同原則に対する例外の許容は例外の一般化を招くおそれがあり、一部の債権者クラスの保護のために利害関係人の優先順位を決定した立法意思を阻害し得ること等を述べた。
なお、絶対優先原則からの逸脱に関するその他の議論としては、例えば、DIPローンレンダーが手続開始前の非優先債権をDIPローン優先債権に取り込むロールアップ(roll-up)や、無担保債権者ではあるが債務者事業の継続にとって重要な供給業者(critical vendor)に対する手続開始直後の優先弁済、363セール(計画外での事業譲渡等)における買収者による既存債務の一部引受けによる実質的な優先順位変更、等がある[9]。また、下記3のとおり、コロナ禍に新設された、小規模事業に係る特例的な再生手続(The Small Business Reorganization Act)も、絶対優先原則の例外をなす規律を含んでいる。
3 The Small Business Reorganization Act
コロナ禍の2019年にThe Small Business Reorganization Act(SBRA/Subchapter V)が制定され、2020年に施行された。SBRAは、小規模事業がChapter11に比べてより迅速かつ低コストで再建を果たすことを可能とする手続である。
その大きな特徴の一つは、債権者の同意なく絶対優先原則からの逸脱を含む再建計画を成立させる新たな途が開かれたことである。同法の適用対象となる小規模事業については、担保債権に対して全額弁済し、かつ、無担保債権者に対しては裁判所が決定する3年ないし5年間の期間の予想可処分所得(projected disposable income)を支払う場合には、債務者の旧株主がその資本を維持する内容の再建計画について、破産裁判所の承認が得られる(nonconsensual plan)。SBRAは、旧株主が新価値の提供なしにその資本を維持する再生計画を実現する途を開くことで、小規模事業者の再建手続を促進している。
なお、SBRAの再建手続では、Chapter11の場合と異なり、全件につき管財人(trustee)の選任を必須とすることや、債務者の債務免除(権利変更)の効果の発生を上記計画弁済の完了まで後ろ倒しにすること等の手続的差異が設けられている。これは、SBRAにおける上記nonconsensual planは、無担保債権者との関係ではその債権全額の弁済をせずに旧株主の資本維持を認める点で絶対優先原則を排除するものであることを踏まえ、無担保債権者に対する代替的な保護を図るものである[10]。
4 結語
米国連邦倒産法において最重要論点の一つとされている絶対優先原則とそこからの逸脱についての議論状況の一部を簡単に紹介した。
我が国の再建型手続とは前提に異なる点はあるものの、絶対優先原則の根源的な問題意識(民法、会社法その他の倒産手続外の優先順位を再生局面でどの程度尊重すべきか等)は同様と思われるため、米国連邦倒産法での議論は我が国でも参考になる部分があると思われる。
以上
[1] Jonathan Seymour & Steven Schwarcz, Corporate Restructuring under Relative and Absolute Priority Default Rules: A Comparative Assessment, 2021 U. ILL. L. REV. 2-3頁。なお、これに対する考え方として、相対的な優先性が維持されていれば足りるとする相対優先(relative priority)原則がある。例えば、上位債権者が全額弁済を受けない場合でも、上位債権者の弁済率が50%、下位債権者の弁済率が30%であればよいとする考え方である。なお、我が国の会社更生法では相対優先原則が通説とされている(松下淳一『新・更生計画の実務と理論』(商事法務、2014年)306頁)。
[2] Douglas G. Baird, Elements of Bankruptcy (7th ed.) (Foundation Press, 2022) 67頁
[3] 一連の判例の中で特に重要なものとして、Northern Pacific Railway Company v. Boyd 228 U.S. 482 (1913)、Case v. Los Angeles Lumber Products 308 U.S. 106 (1939)等がある。
[4] Baird前掲書75-76頁
[5] 同前66頁
[6] Case v. Los Angeles Lumber Products Co., 308 U.S. 106 (1939)
[7] Baird前掲書71頁
[8] 破産裁判所は、Chapter11の手続を廃止にあたり申立前の財務状況の復元が不可能な場合など正当な理由がある場合には、条件付廃止(structured dismissal)を行うことにより、配当その他の財務事項に関して一定の権限を行使することができる(米国連邦倒産法第349条(b))。
[9] このような、倒産手続内外で優先順位が破られ、その失われた優先順位を再度回復していく動きが、現代の米国倒産実務の中心的な特徴であるといわれている(Mark J. Roe & Frederick Tung, Breaking Bankruptcy Priority: How Rent-Seeking Upends the Creditors’ Bargain, 99 VA. L. REV. 1235 (2013) 1250-62頁)。
[10] A.H. Kroezen, Reorganizing Small Businesses: From Chapter 11 to the Dutch Scheme and Back, 98 CHI. KENT. L. REV. 457 (2023) 462-63頁