自主廃業をするにはどうしたらよいのでしょうか。自主廃業では、会社の法人格を消滅させなければなりませんので、会社法の清算手続をすることが必要となります。自主廃業は、法律的観点からは、任意清算ということができます。以下では、自主廃業=任意清算にあたってしなければならない事を解説します。
関係者との調整
[1] 金融機関
任意清算は債務を全額返済することがだ大前提ですので、金融機関からの借入金についても全額返済します。弁済期日の通りに返済しても構いませんが、返済期限が先の場合には前倒しで返済することもありえます。
[2] 顧客・取引先
事業については、突然、閉店するという方法もありますが、顧客や取引先に迷惑をかけないために、徐々に事業規模を縮小していくことが望ましいといえます。まずは、新規受注を断り、既存の仕事だけをこなすようにして、徐々に業務を縮小していきます。買掛金については仕入先にきちんと支払い、売掛金についてはきちんと回収します。営業を継続している方が売掛金も回収しやすい傾向にあります。
アフターサービスが必須のビジネスの場合には、引き受けてくれるところを探すか、個人的にアフターサービスだけは引き続き行うということも考えられます。少なくとも、取引先に、廃業後は会社としてアフターサービスができなくなることをお伝えすることは礼儀として必要でしょう。
[3] 従業員
廃業する場合には、従業員には退職してもらう必要があります。方法としては、本人の同意に基づいて自主的に退職にしてもらう方法と、本人の同意を得ずに雇用主が解雇するという方法があります。
従業員を解雇する場合には、従業員を有効に解雇できるかという法律上の問題があります。日本では雇用主による解雇は、裁判例によって形成された「解雇権濫用の法理」という理論によって制限されており、従業員を解雇する場合には「客観的に合理的な理由」が必要とされています。もっとも、会社を清算するという状況では、従業員を解雇することについて、客観的に合理的な理由が一般的には認められると考えて良いでしょう。
従業員を解雇する場合には、労働基準法により、解雇日の30日前までに解雇予告をしなければならず、それより短い解雇予告期間の場合には不足日数分だけの給料を支払わなければなりません。
退職金については、退職金規定があれば、その規定に従って支払う必要があります。
従業員に退職してもらう場合でも、再就職先を見つけやすくするために、退職日までになるべく期間を置くとか、会社として再就職支援を行うという観点も重要となってきます。
[4] 社会保険関係の届出等
雇用主は、ハローワーク(公共職業安定所)に対して、離職証明書、雇用保険被保険者資格喪失届、事業所に関する適用事業廃止届出の提出が必要です。そして、雇用保険被保険者資格喪失届に基づいて、公共職業安定所長から離職票が交付されますので、離職票を従業員に郵送等により交付します。
労働基準監督署との関係では、労働保険の脱退手続、労働保険料の確定保険料申告書の提出が必要となります。
社会保険事務所との関係では、健康保険・厚生年金保険の被保険者資格喪失届、健康保険・厚生年金保険の適用事業所全喪届の提出が必要となります。
健康保険については、退職した従業員は、国民健康保険に加入するか、従来の健康保険を任意継続(但し2年間)することになります。
退職した従業員の年金の取扱いについては加入している年金によります。
[5] 税務上の届出等
各市町村との関係では、住民税異動届(特別徴収から普通徴収への切り替え)が必要となります。もっとも、住民税の特別徴収をしていなかったのであれば、普通徴収への切り替え手続きは不要となります。
税務署との関係では、給与支払事務所の廃止届、従業員への源泉徴収票の発行が必要となります。
[6] 事務所・工場・倉庫
事務所・工場・倉庫について、自己所有物件の場合には、売却して換金し、抵当権者がいれば、抵当権者への弁済を行う必要があります。
賃貸物件の場合には、賃貸契約を解除します。その場合、明渡後に敷金が返還されますが、未払賃料や原状回復費用などは差し引かれることになります。
また、残置物などがあれば、立退きに際して、これを処分する必要があります。
[7] 在庫等
在庫の処分については、通常の販売であれば、それなりの値段で売却できますが、早期処分ということであれば、かなり安い値段となります。時間をかけて、通常通り売っていくのが良いのか、買取業者などに安値で一括売却するのが良いのかについては、販売コストなどを考えたうえで、どちらが有利なのか検討する必要があります。
設備・工具・什器・備品・自動車なども買取業者などを探して売却するか、破棄処分することになります。
[8] 保険
会社が入っている保険についても解約する必要があります。保険によっては解約返戻金があるものもあります。また、保険の中には、会社から個人に切り替えができるものもありますので、継続を希望する保険については、保険会社に確認しておいた方が良いでしょう。
清算手続
清算については、次のようなスケジュールで進行します。手続きは弁護士や司法書士に任せることもできます。株主総会の開催が少なくとも2回必要であること、債権者に対する官報公告と通知などが必要であること、公告から2か月間は原則として債権者に対する弁済が禁止されることは知識として持っておいた方が良いでしょう。
[1] 株主総会の開催
株主総会を開催して、解散と清算人の選任を決議します。なお、この決議には総株主の過半数(定款により3分の1以上と定めていることがある)が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です(会社法309条2項11号)。清算人には、会社の代表取締役が就任するのが通常です。清算人が複数いる場合には代表清算人も定めることもできます。解散と清算人・代表清算人は、解散日から2週間以内に法務局に登記する必要があります。
[2] 清算財産目録と清算貸借対照表の作成
清算人は就任後速やかに、解散日時点における清算財産目録と清算貸借対照表を作成します。
[3] 債権申出の官報公告、知れたる債権者に対する催告
清算会社は、債権者に対して、2か月以上の期間を定めて、その期間内に債権の申出をすべきことを官報に公告し、それに加えて、知っている債権者に対しては、それぞれに、そのような申出をするようにとの通知書を送らなければなりません。
注意しなければならないのは、この債権申出期間中の2か月間は、清算会社は債務の弁済をすることが禁止されるということです。ですから、この債権申出期間の前に弁済できる債務は弁済しておくということも重要です。ただし、裁判所の許可を得て、一定の債務については弁済することができます。
[4] 清算財産目録と清算貸借対照表の株主総会の承認
清算人による清算財産目録と清算貸借対照表の作成が完成すれば、株主総会において、算財産目録と清算貸借対照表についての承認を受けます。この承認の決議は普通決議で足ります。
[5] 財産の換価処分等の清算作業
清算人は、事業を終了するための作業を行い、会社財産を現金化し、債権を取立て、債務を弁済するなどの清算作業を行います。
[6] 貸借対照表、事務報告、付属明細書の作成
清算会社は、解散日の翌日から開始して期間1年間の清算事務年度ごとに、貸借対照表、事務報告、付属明細書を作成して、貸借対照表と事務報告について株主総会の承認を受けます。
[7] 残余財産の確定・分配
清算人は、会社財産の現金化が完了し、全ての会社債務の弁済が完了すれば、残余財産が確定します。確定した残余財産については、株主に分配します。この残余財産の分配については株主総会の決議は不要です。
[8] 清算事務の終了、決算報告の作成
清算会社は、清算事務が終了したときは決算報告を作成し、株主総会の承認を受けます。この承認の決議は普通決議で足ります。この株主総会の承認により清算手続は終了します。清算人は、この株主総会の決算報告承認の決議から2週間以内に、清算結了の登記をしなければなりません。
[9] 帳簿資料の保存
清算人は、清算結了の登記の時から10年間、清算会社の帳簿やその事業・清算に関する重要資料を保存しなければなりません(会社法508条1項)。全ての書類を保管するわけにはいかないので重要な書類を選別して保管することになります。税務申告書はすべて保存し、会計データは電子データで保存することになることが多いと思います。帳簿などを物理的に保存する場合には倉庫を借りることになりますが、その倉庫料も予算として見込んでおく必要があります。
税務申告
会社が解散すると、税務上も従来とは異なった取扱いがされることになります。通常は、手続は税理士に依頼することになると思いますが、手続の流れの概要は次のとおりです。
[1] 解散事業年度の終了
会社の株主総会において解散決議がなされると、通常の事業年度から解散日までが「解散事業年度」として、1事業年度とみなされます。この解散事業年度は変則的な事業年度になります。会計処理の観点からは、解散日を月末などの切の良い日にした方が何かと処理が便利です。解散日の翌日から2か月以内に解散事業年度の確定申告が必要となります。
[2] 所轄税務署長等への届出
清算人は、会社が解散した場合には、遅滞なく、所轄の税務署長と都道府県・市町村に対して、解散したことを届け出なければなりません。
[3] 清算事業年度の開始
解散日の翌日から清算事業年度が開始します。定款に定める事業年度の規定にかかわらず、解散日の翌日から1年間が清算事業年度となります。清算中の各事業年度終了日から2か月以内に、清算事業年度の予納申告が必要です。
[4] 清算確定事業年度の終了と確定申告
清算事務年度の翌日から残余財産が確定する日(財産が現金化され、債務の弁済が完了した日)については、清算確定事業年度とされます。清算確定事業年度が終了すると、その翌日から1か月以内で、かつ残余財産の分配が実施される日の前日までに清算確定事業年度の清算確定申告書を提出する必要があります。
[5] 残余財産確定事業年度の確定申告書、清算結了届出書
残余財産がある場合には、残余財産確定日から1か月以内に、残余財産確定事業年度の確定申告をする必要があります。また、所轄の税務署長と都道府県・市町村に対して、清算結了したことの異動届出書を提出しなければなりません。