リスケジュールの方法

リスケとは

 リスケジュール、いわゆる「リスケ」とは、借入金の借入条件(一般的には元本の返済スケジュール)を変更することです。「条件変更」や「貸出条件緩和」と呼ばれることもあります。あくまで返済日を延ばしてもらうだけですから、返済日を延ばしてもらった分についても、いずれ金融機関に支払わなければなりません。

 金融機関からすれば、会社からのリスケ要請は、返済約束を反故にする行為といえます。しかし、金融円滑化法(既に廃止)の影響により、中小企業からのリスケ要請は認められやすい環境にあるといえるでしょう。個別の会社について、金融機関がリスケを認めるかどうかは、その会社次第であり、ケース・バイ・ケースの判断となります。

 会社がリスケを申し出た場合、既に合意済みの従来の貸出条件を変更することになりますので、金融機関がリスケに同意することによって初めて、リスケが成立します。会社側が一方的に支払いを停止したとしても、それは「延滞」であって、銀行が合意しない限り、リスケとはいいません。

リスケのメリット・デメリット

 リスケをした場合のメリットとしては、リスケをすることにより金融機関への返済額が減少する結果、キャッシュフローが改善し、会社の資金繰りに余裕が生まれるというメリットがあります。また、リスケをすれば、経営者が、毎日、資金繰りのために時間を奪われて経営に専念できないという状態が解消し、経営に専念して事業再生に取り組むことができるというメリットもあります。

 他方で、デメリットとしては、リスケをすると、原則として、金融機関から新規の融資を受けることが難しくなることを挙げることができます。既存の借入金すら返済できないのですから、そのような危ない会社に金融機関が融資に積極的になれないことは想定できます。それゆえ、リスケを申し出る場合には、融資を受けなくても資金が回っていくのかを十分に検討しておく必要があります。特に、近い将来、設備投資等により確実な資金需要がある場合には、経営改善計画の中で設備投資等の必要性について十分に説明できるかどうか慎重に検討した方が良いでしょう。

 もっとも、リスケをすると、将来、融資が一切受けられないということではありません。いくつかの条件を満たせば、リスケをしても、再び融資を受けることは可能です。 

 その他のデメリットとしては、保証協会付き融資の場合には、リスケをすると新たに保証料を支払わなければならないことが挙げられます。保証料は、リスケするごとに支払わなければなりません。この保証料が結構な金額になることもあります。資金繰りが厳しい中で保証料を支払わなければならない痛いところです。保証料は、原則として一括前払いです。ただし、保証協会との交渉により、分割払いが認められることもあります。

 また、リスケすること引き換えに、金利引き上げや、追加担保・保証人を求められることがあります。最悪の場合、リスケを申し出ることによって、サービサーへの債権譲渡や預金ロックなどの債権回収が強化されることもあります。

 リスケを申し出る場合には、これらのデメリットが生じる可能性があることを理解するとともに、先を見越して、これらのデメリットが生じないように事前に手を打っておくことも重要です(その方法については後に解説します)。

リスケの条件

 リスケをするにあたっては、主に、①元本の返済額・返済時期、②利息の返済額・返済時期について変更を依頼するわけですが、大きく分類すると以下の三パターンに分けることができます。

 ① 元本・利息ともに全額について一定期間の返済猶予を求める方法

 ② 元本全額について一定期間の返済猶予を求めるが、利息については従来通り支払う方法

 ③ 元本の一部について一定期間の返済猶予を求めるが、一部は従来通り弁済し、利息についても従来通り支払う方法

 もちろん、難易度は、③→②→①の順番で上がっていきます。また、リスケは、あくまでも返済猶予を受けているにすぎないので、いずれは返済しなければなりません。

 そこで、いつ、どのようにして返済を再開するかということも問題となります。また、返済猶予を受けてきた期間中の未返済部分をどのように返済するかということも問題になります。特に①の場合には、利息も未払いとなりますので、リスケ対象期間が長くなると、その分が積み上がってきます。

 返済の再開の仕方については、主に、以下の2つの方式があります。

(A)ある日を基準として従前の弁済を再開する1段階方式

(B)例えば、2年目は、元本の3分の1、3年目は元本の3分の2、4年目に従前どおりの元本弁済とするというような段階的方式

 (B)の段階的方式の場合、会社の立て直しが十分済んでいないのに弁済が開始してしまうと、資金不足に陥ることもあり、会社の状況を見極める必要があります。

 次に、未返済分の返済方法については、

(a) リスケ対象期間の未返済分を、従前の弁済に上乗せして弁済する

(b) リスケ対象期間の未返済分は返済期間を後ろ倒しにすることによって対応する

という方法があります。

 (a)は、例えば、リスケ前の元本弁済額が月100万円であれば、その100万円に加えて、リスケ期間中に支払猶予を受けた借入金の返済分として20万円上積みして、合計120万円弁済するということです。従前の弁済額から上積みするわけですので、会社の返済能力がアップしていなければ採ることができない方法です。

 これに対して、(b)は、例えば、リスケ前では5年後に完済予定であった借入金について、2年間の弁済猶予を受けた場合には、最終弁済日を2年分後ろにスライドし、7年後に完済するという方法です。

リスケ期間

 リスケを受ける場合には、会社は、一定の期間、元金または利息の返済について猶予を受けるわけですので、その「期間」が問題となります。これはリスケ期間ともいわれますが、リスケ期間とは、一般的に、2つの異なった意味が混同して使われているように思われます。一つは、金融機関から借入金の条件変更を受ける期間という意味であり、もう一つは、リスケの合意が有効に存続している期間という意味で用いられているようです。両者は一致することもありますが、異なることもありますので、その違いを意識する必要があります。

 ここでは、元本弁済が猶予される期間を「リスケ対象期間」と呼び、リスケの合意の有効期間を「リスケ有効期間」と呼ぶことにします。

(1) リスケ対象期間

 「リスケ対象期間」とは金融機関から条件変更(≒弁済猶予)を受ける期間を意味します。「リスケ対象期間」は、会社の経営・財務状況や借入状況によって変わってきます。会社の返済可能額がどれくらいあるのか、借入金がどれくらいあるのか、金利がいくらなのかなどにより、リスケ対象期間が決まってきます。

 もっとも、借入金の金額については数字を動かしようがなく、金利も変更したとしても相対的に小さい金額です。したがって、リスケ対象期間を決定するにあたっては、会社の返済可能額がどれくらいあるのか、という点が最も大きな決定要因となります。リスケの場合には、会社のキャッシュフローの中からどれくらい返済可能なのか、という観点から返済計画を立てることになります。その意味では、キャッシュフロー重視といえるでしょう。

 返済可能額について、「経営が厳しいので、とりあえず、利息は払いますが、元本の返済はゼロでお願いします」という交渉も可能かもしれません。しかし、経営改善計画を作成して、それに基づいた会社の返済能力を提示した方がより説得力があり、金融機関の納得を得やすいことはいうまでもありません。その意味で、経営改善計画は重要な意味があります。

 単純化すれば、借入金の総額を返済可能額で割って出てきた数字がリスケ対象期間となります。つまり、

 リスケ対象期間=借入金総額÷返済可能額(年間)

となります。

 このように決まるリスケ対象期間ですが、返済可能額については将来の収益に依存しているため変動可能性が高いので見通しが立たないことが多く、逆に「いくら返済すればよいのか」という問題設定がされることがあります。むしろ、「リスケを認めてもらうためには、どれくらいの金額を返済すればよいのか」という問題設定がされることの方が多いかもしれません。その場合、リスケ対象期間を想定して、そこから、返済可能額(返済すべき金額)を逆算することになります。

 その場合、リスケ対象期間として何年くらいを設定すればよいのか、ということが問題になります。この点については、一般的には、①実質債務超過を解消するために必要な期間と、②「債務償還年数」という2つの要素が、リスケ対象期間を決定するための目安となります。

 実質債務超過の解消については、金融検査マニュアルにおいて、貸出条件緩和債権(要管理債権)からランクアップするための条件となっているために金融機関が注目するポイントとなっているのですが、これについては、債務者が中小企業である場合には、大企業とくらべて債務超過解消までに時間がかかることが多いことなどを考慮して、経営改善計画が、概ね計画どおり進捗している場合には5~10年以内に実質債務超過が解消されていればよいとされています。

 「債務償還年数」とは、会社が借入金を利益で完済するのにどれくらいの期間を要するかということを判断するための指標であり、銀行実務では良く用いられています。

 「債務償還年数」の計算式は、様々なバージョンがありますが、典型例は次のとおりです。

 債務償還年数=(有利子負債-運転資金)÷営業キャッシュフロー

有利子負債=短期借入金+長期借入金+社債+割引手形

  運転資金=売掛金+受取手形+割引手形+在庫-買掛金―支払手形

  営業キャッシュフロー=経常利益+減価償却費-税金

 金融機関の視点からは、業種によって異なるものの、一般的には、この債務償還年数が10年以内であれば、会社は正常であり、10年を超えると注意が必要とされています。したがって、債務償還年数が10年未満となるようなリスケが望ましいということができます。

つまり、リスケ対象期間は、短ければ短いほど良いですが、10年程度なら許容範囲であり、15年だと長いという印象を金融機関に持たれます。リスケ対象期間が15年を超えてしまうような場合には、借入金の全額を返済することが現実的ではないと想定されるため、債権放棄などの抜本的対策を採ることも視野に入れるべきでしょう。

(2) リスケ有効期間

 リスケの合意の有効期間である「リスケ有効期間」は、一般的には、6か月から1年です。1年を超えてリスケを認められることもありますが、それほど一般的ではないと思われます。

 リスケの合意が成立して6か月から1年のリスケ期間が満了した時点で、会社は、再度、金融機関と話し合いをして、リスケの更新について金融機関の合意を得る必要があります。このように金融機関がリスケ有効期間を短期間で区切るのは、金融機関側としては、その時々の会社の状況を見て判断する権利を留保しておきたいからです。

 逆に、リスケ有効期間が6か月から1年だとしても、その期間が満了すれば必ず元のとおり返済を開始しなければならないというものではありません。金融機関は、有効期間ごとに、会社の事業の状況を判断して、リスケを更新していくことになります。会社が、経営改善計画における事業計画を8割程度、達成していれば、金融機関も、リスケの更新に応じてくれるものと思われます。

金融機関との交渉

(1) 弁済金額の決定基準

 リスケするにあたっては金融機関と交渉することになります。ここでは、リスケ固有の金融機関との交渉における問題事項について解説します。

 会社が複数の銀行から借り入れをしている場合、リスケ対象期間中に元利金の一部を支払う場合に、各銀行に返済する金額はどのように決めるべきなのかが問題になります。なぜなら、各銀行によって、それぞれ立場が違うので利害が一致しないからです。

 返済する金額の決定基準としては、①貸出残高、②非保全債権残高、③従来の返済額の3つが考えられます。

 ①の貸出残高というのは、各金融機関の各貸出残高を基準にすることをいいます。そして、各貸出残高の比率に応じて各金融機関に返済する金額を割り当てます。比率に応じた割り当てのことを「プロラタ」(比例配分)方式と呼びます。

 ②の非保全債権残高というのは、これらの貸出債権のうち、担保で保全されていない部分の金額のことを意味します。

 ③の従来の返済額とは、会社が、リスケ前に弁済していた金額をいいます。元本を基準にする場合と元利金の総額を基準にする場合が考えられます。

 リスケの場合には、基本的に①を採ることが多いと考えられますが、貸出状況に照らして、全銀行の納得を得るために、何らかの形で修正が加えられることもしばしばあります。

(2) 弁済期日

 リスケ後に元利金を支払う場合に、その弁済期日をいつにするのかということも問題になります。従前の弁済期日とおりとするのがわかりやすいかもしれませんが、会社から見ると、弁済期日がばらばらだと管理が大変ですので、揃えることも考えられます。

 また、それ以上に、従前の借入金の弁済期が、毎月、3か月に1回、1年後に一括弁済とバラバラであった場合に、従前の弁済期日を維持すると、例えば、一括弁済の借入金を出している金融機関は、他の金融機関が毎月弁済を受けるのにもかかわらず、約定弁済日までの当分の間弁済を受けることができなくなるということになりますので、一括弁済の借入金を出している金融機関が、このような条件ではリスケに応じないことが想定されます。そのような場合には、弁済期を揃える必要があるわけです。

リスケを申出る前の注意点

 リスケを申し出た場合には、金利引き上げや、追加担保・保証人を求められることがあります。この場合には、基本的に全て断るとしても、どうしても応じざるを得ないのであれば、金利引き上げを選ぶべきでしょう。また、金利引き上げも、低いに越したことはありません。

 追加担保を避けるべき理由は、そもそも、追加担保については、そのような担保余力のある資産を持っている会社は少ないでしょうし、仮に、余力があるとしても、リスケの段階で、特定の金融機関に担保提供すると、担保を取り損ねた他の金融機関の反発を招きかねないからです。

 追加保証人を避けるべき理由は、会社が危ない状態で、会社の多額の債務について第3者に保証人に保証させることは、会社が破綻した場合には、その人の人生を破綻させることにつながりかねないからです。金融機関は、保証人に依存した融資をしていません。保証人については、将来の資産状態がどうなっているかわかりませんので、そもそも本当にそこから回収することを期待しているわけではないのです。ですから、保証人については絶対拒否を貫き通せば、その主張は通りやすいといえます。

 また、リスケを申し出ることによって、サービサーへの債権譲渡や預金ロックなどの債権回収が強化されることもあります。

 サービサーへの債権譲渡は、債権者の自由なので、これを阻止することは難しいです。もっとも、サービサーへの債権譲渡はマイナス面ばかりではありません。サービサーは、額面額よりかなり安い金額で債権を購入しているため、それ以上の金額を弁済すれば債権放棄に応じてくれやすいといえるからです。

 預金ロックについては、預金ロックをしそうな金融機関があるのであれば、リスケ申出前に、その金融機関から、他の金融機関(特に借入残高のない金融機関)に資金を移動させておくという対策をしておくことが考えられます。

融資の復活の条件

 リスケした場合、当分の間、金融機関から融資を受けることはできなくなります。もっとも、一般的には、次の条件を満たした場合には、場合によっては、融資を再び受けることが可能となります。

 その条件とは、第1に、返済が、リスケ前の従来の条件どおりの返済に戻っていること、第2は、リスケ対象期間中に弁済猶予を受けた借入金についてもきちんと返済していること(融資残高がリスケをしなかった場合と同じ状態に戻っていること)、第3は、従来の条件の弁済に戻ってから一定期間が経過していること、第4は、会社の経営状態が通常化していることです。

 つまり、会社が正常化して、金融機関がしばらく様子を見てから、融資が復活するということになります。

取引先との交渉

 以上は、金融機関とのリスケについて説明してきましたが、金融機関からの借入金のリスケだけでは資金が回っていかない場合には、他の手段を考える必要があります。その一つとして、取引先からの買掛金のリスケがあります。手形のジャンプなどもこれに含まれます。

 取引先は、気心が知れていることも多く、頼みやすいですし、また、相互依存の関係もあるので、リスケに応じてくれる可能性はそれなりにあるので、リスケ先としては有力な候補です。もっとも、取引先からの買掛金をリスケした場合には、原材料や商品の納品が抑えられたりするなど取引に悪影響が出たり、取引先には金融機関と違って守秘義務はありませんので、口止めしても、「あそこは危ない」という噂が流れて信用不安が広がるリスクがあることに注意する必要があります。

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