経営者保証ガイドラインとは
経営者保証に関するガイドライン(https://hosho.go.jp/pdf/guideline.pdf、以下「ガイドライン」と言います。)は、経営者保証を提供せず融資を受ける際や保証債務の整理の際の経営者の個人保証についての「中小企業・経営者・金融機関共通の自主的なルール」であり、中小企業庁と金融庁の関与の下、日本商工会議所と全国銀行協会が共同で設置した「経営者保証に関するガイドライン研究会」が策定・公表したものです。
ガイドラインでは、具体的には、
- 新規借入時に経営者保証なしで融資を受けることができる可能性がある
- 早期に事業再生/廃業を決断した際、一定の生活費等を残すことができる可能性がある
- 既存の保証契約に対して経営者保証の解除ができる可能性がある
- 債務整理を行った保証人の情報を信用情報登録機関に報告・登録しない
といった内容を定めています。
特に、ガイドラインが保証債務整理に関し、②早期に事業再生/廃業を決断した際、一定の生活費等を残すことができる可能性があるという点が、保証債務の整理が必要な場面において重要なポイントとなります。
ガイドラインを活用した保証債務整理のメリット
【保証人側にとってのメリット】
- 破産に至ることを回避して、一定の場合には破産の場合よりも多くの資産(破産の場合における自由財産99万円に加えて,年齢に応じて約100万~360万円の生活費や、「華美でない」自宅など)を残存資産として残すことができる。
- 官報への記載がなく、保証人の情報が公開されない。
- 信用情報機関への登録がなされない。
【金融機関側にとってのメリット】
- 主たる債務者を含めて回収額の増加が期待できる。
- 保証債務の整理による管理コストが軽減する。
- 課税リスクや株主代表訴訟の問題も解消される
ガイドラインによる保証債務の整理
(1)対象となる当事者
ガイドラインによる整理の対象となる保証債務は、中小企業・小規模事業者を主たる債務者とする債務を保証した中小企業の経営者とされていますが、ガイドラインの趣旨から主たる債務者の範囲、保証債務者の範囲はいずれも柔軟に解されています。例えば、主たる債務者には個人事業主も含まれるとされており、保証債務者には実質的に経営権を有している者や、経営者と共に事業に従事する経営者の配偶者などが含まれます。
また、対象債権者は中小企業に対する金融債権を有する金融機関等であって、厳に経営者に対して保証債権を有するもの、あるいは将来これを有する可能性があるものとされており、信用保証協会(代位弁済前も含む)、既存の債権者から保証債権の譲渡を受けた債権回収会社(サービサー)、公的金融機関等も含まれます。なお、保証債務を履行して求償権を有することとなった保証人は含まれません。
(2)主たる債務者の手続との関係
ガイドラインによる保証債務の整理を行うためには、前提として、主たる債務者において、債務整理(破産、民事再生などの法的債務整理又は事業再生ADRなど準則型私的整理)がなされたか、又はその手続きに着手している必要があります。
なお、ガイドラインに基づく保証債務の整理方法としては、①保証債務は主たる債務者の債務整理と保証人の債務整理を一体として処理する場合(「一体利用型」)と、②保証債務のみを処理する場合(「のみ利用型」主たる債務者の債務整理が法的債務整理手続で行われているなど主たる債務者と一体処理ができない場合)があります。
(3)ガイドラインによる保証債務整理手続における特徴
ガイドラインに基づく保証債務整理の手順の詳細は、利用する債務整理手続毎に異なりますが、共通する手続の特徴は以下の通りです。
① 一時停止等の要請への対応
ガイドラインに基づく保証債務整理の申出を行う場合には、原則として主たる債務者、保証人及び支援専門家(弁護士等)が連名した書面により、全ての対象債権者に対して、同時に、一時停止(個別の権利行使を一時的に停止すること)の要請をすることとされています。
② 保証債務の履行基準(残存資産の範囲)
保証債務の整理においては、保証人の全財産をリスト化した上で、保証人の手元に残せる「残存資産」とそれ以外の資産を分け、残存資産以外の資産を返済原資として以て債権者に弁済することになります。
そこで何が「残存資産」とするのかが重要となりますが、ガイドライン上、下記のものが残存資産に含まれるとされています(イ乃至オは目安として勘案するとされています)。
ア 破産手続における自由財産(99万円相当)
イ 一定期間の生計費に相当する現預金(保証人の年齢により約100万円~360万円程度)
ウ 華美でない自宅
エ 主たる債務者の実質的な事業継続に最低限の資産
主たる債務者の債務整理が再生型手続の場合で、本社、工場等、主たる債務者が実質的に事業を継続する上で最低 限必要な資産が保証人の所有資産である場合は、原則として保証人が主たる債務者である法人に対して当該資産を譲渡し、当該法人の資産とすることにより、保証債務の返済原資から除外。
オ その他の資産
生命保険等の解約返戻金、敷金、保証金、電話加入権、自家用車その他の資産については、破産手続における自由財産の考え方や、その他の個別事情を考慮して、回収見込額の増加額を上限として残存資産の範囲を判断。
③ 保証債務の弁済計画
弁済計画においては、保証人の財産状況(残存資産、それ以外の資産)や、残存資産以外の資産を返済原資とした保証債務の弁済計画(原則5年以内)、弁済部分を越える債務の免除を内容とする弁済計画案を作成します。
全ての対象債権者がこれに同意をすれば弁済計画が成立することになります。
④ 保証債務の一部履行後に残存する保証債務の取扱い
弁済計画により弁済がなされる債務以外の債務については、ア)保証人による開示情報に対する表明保証、イ)資力を証明するための必要な資料の提供、ウ)弁済計画の経済的合理性、エ)表明保証に反した場合には追加弁済を行うことについての契約書面の締結という要件を満たした場合には、対象債権者は保証人からの債務免除要請に対し、誠実に対応することとされています。