当研究会30周年にあたって

第二東京弁護士会倒産法研究会30周年にあたって

第13代代表幹事 弁護士 髙 井 章 光

【この内容は2018年の第二東京弁護士会倒産法研究会30周年の記念誌に掲載されたものを再掲したものです。】

1 第二東京弁護士会倒産法研究会30周年

 第二東京弁護士会倒産法研究会は、昭和63年4月に発足して以来、今年4月に満30歳を迎えます。本年3月8日にはこれを記念して、乃木会館にて、多くのご来賓をお招きしたパーティーを開催致します。他の弁護士会においても同様の研究会組織を作っているところがありますが(名前は倒産法研究会であったり、倒産法部であったりといろいろありますが)、多分、東京弁護士会(倒産法部)に次いで長い歴史を持っているのではないかと思います。これまでの30年間の歴史の詳細つきましては、本書の随所にちりばめられておりますので、そちらをご参照下さい。

 今回、当研究会の30周年の節目において、これまでの30周年年間を記録に残し、今後の当研究会の活動の指針とすることは大いに意義があるであろう、という思いによって、本書は作成されました。30年間の活動の記録がきちんと残されていた訳ではないため、調査活動は思いのほか困難な活動となりました。ご対応を頂いた先生方には厚く御礼を申し上げます。また、誠に僭越にも各会のこれまでお世話になった方々に対し、突然にご寄稿をお願いしましたところ、皆様快くお引き受け頂き、様々なご経験やお立場から沢山のご論考を頂くことができました。皆様のご厚意には感謝してもしきれません。本当にありがとうございました。この場をお借りして厚く御礼を申し上げます。どのご論考を拝見致しましても、倒産実務において重要なご論考であり、今後の倒産実務においても重要な資料として活用されるものと思います。本書が、当研究会の記念誌の枠を超えて、倒産実務家の皆様の蔵書の片隅にて、時には息抜きの際にご覧頂き、時には資料的価値があるものとしてご活用頂けることを望んでおります。

2 私の倒産法研究会での経験(若手弁護士に向けて)

 私の経験を少し述べますと、多分、弁護士一年目か二年目には当研究会に加入していたように記憶しております。当時は、倒産法研究会には、第二東京弁護士会倒産法制等検討委員会という兄弟がおりました。東京弁護士会や第一東京弁護士会の先生方からは、二弁はなぜ二つも組織があるのか、とよく質問されていました。委員会は昼間に開催され、必ずしも倒産実務を専門としている先生ばかりではなく、実務系委員会であったので人気もあり、当時の私のように経験が少ない若手弁護士も多数参加しておりました。第二東京弁護士会の委員会として比較的公的な活動を行っており、当時は倒産法制改正作業が法制審で行われていたため、その対応作業を行ったりしておりました。他方、当研究会は倒産実務を専門としている弁護士が好き好んで入るような玄人集団の研究会であり、毎月の例会でも専門性の高いテーマが取り上げられていました。比較的時間に余裕のある夕方開催であったにもかかわらず、そんなに多くの方が参加していたという印象はなく、10名前後の参加であったように思います。委員会は東京地方裁判所民事第20部(破産再生部)の窓口、研究会は民事第8部(商事部)の窓口となっており、委員会は比較的広く一般向け、研究会は玄人向けという棲み分けがあったように思います。

 私が弁護士登録をした平成7年からしばらくは倒産事件が比較的多く、最初に入ったあさひ法律事務所は倒産専門の事務所ではありませんでしたが、常時何件か私的整理や和議手続を担当する機会がありました。その後、平成12年に民事再生法が施行されるとさらに倒産事件を扱うことが多くなり、自然に倒産法制等検討委員会や倒産法研究会にて継続的に参加する機会が増えました。何度も参加している若手には必ずチャンス(お手伝い〔労働〕)が巡ってきます。委員会でも常時若手向きの作業を与えて頂き、研究会でも事務作業の機会を頂きました。そのようなチャンス(お手伝い〔労働〕)をきちんと対応していると、いきなり大きなチャンス(事件担当)に恵まれます。平成14年に研究会の中心メンバーの一人であった那須克巳己先生が日産建設株式会社の更生管財人として東京地裁民事8部から呼ばれた際に、更生管財人代理に呼んで頂きました。その事件を通して、非常に丁寧に更生管財実務を教えて頂きました。その後も、宮川勝之先生(東日本フェリーグループ)、長屋憲一先生(昭和鋼機株式会社)、新保克芳先生(ジョイント・コーポレーショングループやワシ興産グループ)といずれも二弁の先生方から更生管財人代理の機会を頂きました。現在においても、事件数は少なくなっておりますが、会社更生管財事件が当研究会の先生方に来た場合には、研究会の中堅や若手がその代理や補佐に呼ばれる慣習は続いています。このような形で会社更生実務が二弁において継承されて行っております。

 さらに、倒産法研究会の先生において出版の企画があると、若手にも勉強する機会になるからということで執筆するチャンス(勉強〔労働〕)をもらうことがあります。民事再生法施行にあたり実務書籍を執筆する企画があり(上野正彦ほか編『詳解民事再生法の実務』第一法規)、弁護士経験5年目でしたが「否認権」を担当するよう割り振られました。何度も執筆会議を重ねて諸先輩先生方からご教授頂いたことを覚えております。その後も書籍の企画の度に声をかけて頂きました。このように、倒産法研究会にて活動することによって、「倒産実務」を勉強するチャンスを得、さらには実際に大きな事件を担当するチャンスを得ることができました。倒産実務家を名乗ることができたのはこれらの経験によってであると思っております。

3 倒産法研究会の現在の活動状況

 私は現在の代表幹事ですので、少し現在の研究会の活動状況について説明を致します。本書の他の箇所にもいろいろな形で日々の活動報告がなされておりますので、そちらもご参照下さい。現在の研究会の活動は、毎月の例会において、著名事件やおもしろい事件を担当した弁護士からの事例報告、研究者や弁護士以外の専門家によるご講演、東京地裁民事820部と・820部の各部長によるご講演などを行っているほか、例会とは別に2ヶ月に一度のペースにて継続的にテーマを決めて倒産実務についての研究会を実施し、さらに年一度の合宿(初日は勉強会と懇親会、翌日はゴルフ会)を開催しております。そのほか第二東京弁護士会の一般会員向けに破産管財実務の継続研修会(4回)と倒産関係の研修会(1回)を担当し、東京地方裁判所民事第8部や第20部との関係における窓口となり、東京弁護士会や第一東京弁護士会等の他の弁護士会の倒産法研究会との交流の窓口を担っております。

 他の弁護士会の研究会と比較して、第二東京弁護士会倒産法研究会の最大特徴は、ベテラン先輩弁護士も中堅弁護士も若手弁護士も非常に垣根が少なく低く風通しがよい点にあると思います。力強さとか重厚さはほとんどないかもしれませんが、さわやかな軽快さが特長であると思います。当研究会の会員には他の弁護士会の方も加入されています。

4 将来の第二東京弁護士会倒産法研究会の姿(再び若手弁護士に向けて)

 最後に、編集担当の先生方から難しいテーマ(表題のとおり)を頂きました。若手向けにがつんと将来の抱負を書いて欲しいということです(正確には、「これからの二弁倒産法研究会のあるべき姿、進むべき道など、思い描いているところをぐぐっと深掘りして、若手に未来を感じてもらえるようなところ」を書いて欲しいということです)。

 倒産事件は無くならないと思います。したがって、第二東京弁護士会倒産法研究会もこれからも永久に継続するものと思います。一方で、倒産事件は社会の動向にも影響され、様々な変化を続けています。この10年ほどでも、DIP型会社更生、倒産の国際化、スポンサー選定の議論、債権者委員会のあり方、取引債権保護の議論、私的整理手続から法的手続に移行した場合の議論、法的倒産手続の激減と準則型私的整理への傾向、「経営者保証に関するガイドライン」の活用など様々な課題が生じました。我々倒産実務家の先輩方は、これら目の前で進行している様々な倒産紛争に臨機応変に対応しながら、最適の解決方法を模索する努力を継続して来ました。最適の解決方法は、法律分野以外にあるかもしれませんし、過去の同種倒産事件の中に隠れているかもしれません。ちょっとしたところに解決のヒントが潜んでいることがあります。そのため、我々はワンパターンではなく、常に倒産実務に必要な研鑽を様々な分野において追い求め、さらに過去の倒産事件を含めオーソドックスな問題においても再検討を怠らない、という姿勢にて歩み続ける必要があると思います。固定観念にとらわれないが、地に足が付いた議論を自由闊達に実践する。その場が倒産法研究会であって欲しいと願っております。

 これまでとおりベテラン先輩弁護士、中堅弁護士と若手弁護士が、垣根を低くして気軽に交流でき、さらには他会の弁護士の方、裁判所や研究者の方、異業種の方から様々な刺激を受けながら、変化を続ける倒産事件に対応していく努力を継続して行きたいと思います。さらに後輩の方々にバトンを繋げていきたいと思います。

経歴 髙井章光 (47期)1993年東京大学法学部卒、1995年弁護士登録・あさひ法律事務所勤務、1999年須藤・髙井法律事務所開設(共同パートナー)、2016年髙井総合法律事務所開設(代表)。2011年(~13年)司法試験考査委員(倒産法)。現在、第二東京弁護士会代表幹事(第13代)、日弁連中小企業法律支援センター事務局長、全国倒産処理弁護士ネットワーク理事、日弁連倒産法制検討委員会幹事、日本私法学会会員、日本民事訴訟法学会会員

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